特別インタビューその2:ナショナルチームヘッドコーチ吉田氏に聞く(後編)

 今年、NTヘッドコーチに就任した吉田勉氏のインタビュー後編をお届けする。前編では就任の経緯、実際に練習環境を提供するにいたる考え方や実際のご苦労を伺った。


――実際、NTに対して良質なコーチングを実現できる人材が少ないのが悩みでしょうね。今年のWOCのオフィシャルなど帯同メンバーは?

吉田:本大会には、尾上委員とサポート役として伊藤奈緒氏。本大会前のトレーニングキャンプにはこの2人に加えて、コーチとして稲葉英雄氏、トレーナーとして宮本千江子氏が帯同します。私は就任時にすでに夏の予定が決まっていたため帯同しません。

――吉田さんが帯同できないのは残念ですが、逆に言えば就任時に織り込み済みなのですね。

※稲葉氏はイギリス在住。鹿島田強化委員長が選手として伸びてくる前、村越氏に次ぐナンバー2だったと言われている。宮本氏もかつては世界選手権代表。はり師、きゅう師、マッサージ師の資格を持つ身体ケアのプロ。

――本戦は尾上さんと伊藤さんの2人ということですが、吉田さんとのすりあわせは入念に行われているのでしょうね。

吉田:尾上委員はJOAの事務局長でもあり、2003年からチームのお世話をしていただいています。2008年からは脆弱なサポート体制の中、選手団のマネジメントのほとんど取りしきっていただいています。現場のサポートも含め、尾上委員なしでは、世界選手権参加はできないといっても過言ではないでしょう。

――貴重な存在です。伊藤さんについてはいかがでしょうか。

吉田:伊藤さんはロゲイン活動を主にしてきた方ですが、オリエンテーリングにも力を入れるようになり、競技力を伸ばしています。AsOCなどの運営にも協力していただいています。伊藤さんはおもにサポート役ということで、本戦スケジュールについては尾上さんと打ち合わせを密におこなうようにしています。事前にスケジュールをつめてありますし、メールで頻繁に状況を連絡してもらうようにします。

――今度はWOCチームメンバーについて。

※女子 加納尚子、渡辺円香、番場洋子、朴峠周子、関谷麻里絵
男子 松澤俊行、柳下大、山口大助、加藤弘之、寺垣内航、小林遼

――吉田さんが選考されたのではないと聞いていますが……。

吉田:選考については、基本的にはかかわっていません。今回は就任時期のこともあって、選考された選手をいかにうまく強化し、まとめていって結果を出させるかという部分に集中して携わることとしました。

――そうでしたか。では、男女とも今年のチームの目標を聞きます。

吉田:メディアとしては数値的な目標を挙げないと面白くないかもしれません。

――それがわかりやすいでしょうね。

吉田:しかし、現状で日本の選手の世界における位置を把握するすべはありません。転戦している選手がいないのですから。従って、順位設定は夢や思い付きでは可能あっても目標としては設定できないというのが私の考えです。

――転戦して常に世界の選手の中での位置を把握している選手がいれば話は別な
のでしょう。それを踏まえたうえでの話になるんですね。

吉田:個人種目の目標としては、全参加選手が、ただ参加しただけというタイムでなく走れること。つまりは予選通過争いに参加できること。リレーの目標は個人の成績の結果が十分に反映できることです。順位設定は個人の結果を踏まえて設定します。

――全参加選手が、という点に注目です。全体の底上げとも取れます。

吉田:そうですね。特に昨年はリレー重視ということがあり、そのためのメンバー作りを入念にという考え方が主体だったようです。ですが、私はどちらかというと個人成績を重視しています。ただ、それは特定の個人の成績ではありません。リレーはチーム全体の個人の成績の集大成です。そしてこの個人の成績は2-3ヶ月の練習で伸びることもあります。

――個人の成績の集大成が、リレーであると。

吉田:個人戦をちゃんと走れる選手を多数育成することで、リレーは誰が走ってもちゃんと成績が出せ、現場で調子のいい選手を投入できるようにしたいと思っています。そして、リレーの結果をメンバーだけでなくチーム全体で共有できるチームを作りたいというのが、私の希望です。

――なるほど。

吉田:そのための具体的な策として、

  1. どこでも使える基本的な技術を身につけること。
  2. 各国に共通な地図の表現について確認すること。
  3. 巡航スピードを早くすること。

としました。3.は男子ではキロ7-8分、女子ではキロ9-10分で走れる
ことを念頭に置いています。

――オリエンテーリングの本質に焦点を当てた、基礎力アップですね。

吉田:1.-2.は埼玉県の練習でも行ってきたことであり、どのレベル、どの年代においても普遍であると考えています。エリートと一般選手の違いはそれをどんな場面でも実施できるか、ハイスピードで実施できるかという違いでしかないと考えています。

――海外のテレインはとかく慣れていないことが障害になりますが、1.-2.はそのハードルを低くしそうです。日本に居ながらの仮想対応になります。

吉田:現地の情報については、個々のイメージとしてもつだけでなくコーチに一元化して整理し、できることとできないことを明確にし、共通理解をもたせるようにしました。

――なるほど。そうやって本戦をイメージしやすくしていくのでしょうね。さて、注目の選手についてお聞きしたいのですが。

吉田:ちょっとレース前にはきつい質問ですね。全員注目してください(笑)。

――先ほどの、全参加選手が予選通過争いということですね(笑)。

吉田:2004のスウェーデン以来、今年は久々にいわゆるテクニカルなテレインが登場してきます。日本にはほとんどない地形を走ることになります。

――足の速さだけでも予選通過のラインは徐々に上がっていると聞きます。テクニカルなテレインのほうが、見ているほうも期待できるのではないでしょうか。

吉田:足が遅いというだけでもそれはハンデなのでテクニカルだからということで急に期待値が上がるわけではありません。そして、フィジカル面については急に良くなるということはありません。これはオフシーズンの課題となるでしょう。現状の体力的ハンデを背負った上で、日本での練習と情報戦略でいったどれほどの結果を出せるかというところに注目してみてもらえるといいかと思います。そういった意味で海外レース経験のほとんどない初参加の選手がどれだけやるかというのも楽しみです。

――チームの準備状況などはいかがですか。

吉田:怪我、疲れなどで人によって波はありますが、極端に調子を落としている選手はいません。基本技術については、各自自信を深めていってもらっていると思います。現在は基本技術の練習の時期を終えて、その中から取捨選択していかにスピードをあげていくかという段階にあります。

――選手それぞれの持つ特長を生かして戦ってほしいものです。

吉田:現地対策、直前のスケジュールについてはすでにチーム案を提示しています。練習や合宿で理解を深めているところです。

――チーム作りについて、気をつけていることなどはありますか。

吉田:あまり仲良くならないようにしています(笑)。あと議論する時間がなるべく少なくなるようにしています。アスリートとしては議論よりコンディションの維持に注意を払って欲しいので。

――ほう、そういうものですか。

吉田:特に議論はこの時期にすることではありませんね。必要以上に仲良くならなくても共通理解をもてるように、スケジュールやこちらの狙いを事前に広報し、そのとおりに実施できるように努力しています。

――まさしくリーダーシップ、ですね。

吉田:各個人がチーム内での自分の役割をこなすことでチーム全体の結果がよくなるという会社的組織にしたいと思っています。

――最後に、日本であるいは現地で応援してくれる方に一言お願いします。

吉田:彼らがどれだけやってくれるのか私としてもとても楽しみにしています。現地に行ってくれている皆さんには選手に声をかけて勇気を与えていただけるとありがたいです。日本にいる皆さんもインターネットなどでの観戦、応援をお願いします。

――どうもありがとうございました。

i-3c05b1ead88972d899a30b7dc42da3a8-yoshida.jpg

<吉田勉(よしだつとむ)プロフィール>

1963年生まれ。
オリエンテーリングクラブみちの会所属
選手時代の主な戦績
 日本学生選手権6位
 全日本選手権4位
 世界学生選手権代表 1986
 世界選手権代表 1987,1989,1991,1993
指導者としてのキャリア
 1990,1992 世界学生選手権 コーチ
 1995 世界選手権 コーチ
 2004-5 ナショナルチーム スタッフ
 2007-2009 埼玉県強化委員・埼玉選手団監督
 2010年3月から現職。

 現地ノルウェー、トロンハイムにはO-News取材班も足を運ぶ。またライブストリーミングが予定され、国内においてもインターネット観戦が楽しめる。選手たちの戦いに注目するとともに熱い声援を送られたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です