特別インタビューその2:ナショナルチームヘッドコーチ吉田氏に聞く(前編)

 ジュニアコーチ国沢氏編に続くインタビュー第2弾は、この春ナショナルチーム(NT)のヘッドコーチに就任した吉田勉氏にスポットを当てた。今年の世界選手権(WOC)は8月8日からノルウェー第3の都市、トロンハイムで開催される。世界で戦うトップランナーを指導できる人材は極めて限られている中、実を結びつつある吉田氏独特の理論を披露する。


――吉田さん、よろしくお願いいたします。やはり最初にヘッドコーチに就任された経緯からお願いします。

吉田:ここ数年、選手たちとの会話の中でチームの活動が停滞しているのを感じていました。ただ、自分の考えと日本チームの強化のプロセスが必ずしも同じ方向を向いていないということを常々感じていたため、ナショナルチームの活動には積極的に参加せずに、もっと普及的なレベルで、トレーニングの機会を設けたり、県レベルでの強化に携わるような活動を行っていました。

――吉田さんといえば近年は埼玉県選手団の監督として、チームをうまくまとめながらレベルアップしていっている印象があり、言われる普及的なレベルにおいて非常に成功されているように映ります。ですが、日本チームの強化とは方向性が……、というところでしょうか。

吉田:方向性という言葉を言い換えれば重点をどこにおいているかということですね。人的にも、金銭的にも少ない資源を何に使っていくのかという部分です。昨年、強化委員会から、10年ビジョンとスタッフ募集の公示がなされたときも、具体的なレベルでのプランが見えなかったため、応募は控えていました。

――それが、どう展開していったか興味深いところです。

吉田:その後、応募の期日が過ぎても正規チームのスタッフが決まっていないことが明らかになったこと、これまでつちかってきた埼玉県での経験を有効に使うべきではないかということ、年齢的にもそろそろ現場の活動ができる時間が限られていることなどから、もし、自分の考えと委員会の方針のすりあわせができるなら、(特に重点政策についてですが)と具体的な強化スケジュールのレポートを委員会に提出して、急遽3月時点でのヘッドコーチの就任となりました。

――対象が埼玉県とNTでは吉田さんの強化方針は違うと思いますが、委員会に提出されたレポート、その肝の部分のお考えを聞きたいと思います。

吉田:強化方針については特に異論があったわけではありません。問題はそれをどうやって実現していくか、何から手をつけていくかということでした。

――そのためにはまず、現状分析ですか。

吉田:近年、特に2005年の日本でのWOC開催に向けての取り組みのなかで、組織としてはできるだけ選手のサポートをしなくてはいけない、選手側としては組織がいろいろなことをしてくれるという図ができてしまったような気がします。もちろんそれができるならそれに越したことはありません。ただ、2005年まではある程度予算もつき、日本開催に向けてスタッフもそろっていたのですが、徐々に金銭的にも人的にも厳しくなっていったと思います。

――当時も決して楽な状況ではなかったようですが、日本開催のWOCに向けてという強い意識が、誰の目にも見て取れたと思います。

吉田:それがお金がないから、人がないからこれはもうできない、あれもできないといった流れになってしまってきていたように私には思えます。

――そうだったのですか。

吉田:実際にそうであったかはわかりませんが、私はそう感じました。そこで、できないという部分を何とかしようと、無い部分を補うため人的な補完でサポーターの募集という形になったのだと思いますが、どんな活動に対してサポートしていくのかが見えないのでは手を挙げようがありません。

――「見えない」のでは人は動かないということですね。

吉田:そこで活動と役割を具体的にするというのが一番の肝でした。委員会は委員会として役割を、ヘッドコーチはヘッドコーチとしての役割を、選手は選手としての役割を明確にして、活動を行うということです。

――なるほど。役割が明確になれば、具体的な活動が考えられると。

吉田:具体的な流れで最も重要なのがスケジュール管理です。大会までにチーム全体がどのような流れで動くのかを選手に提示し、実際その通り動くということです。そうしなければ選手はトレーニングをどう組み立てていいかわかりません。委員会は実行組織ではないので相談してから決めるのでは広報は後手後手に回り、変更が生じてスケジュールどおりに進まなくなり、選手に不満がたまります。

――スケジュール管理ができると、選手が準備しやすくなるのですね。

吉田:そうですね。それがないとすべて選手が自分で準備しなければならなくなります。スケジュールを予定どおりにすすめるために、現場の活動と権限、わかりやすく言えば主に練習場所の提供とスケジュールの提示を私個人に集中し、一度スケジュールを動かしてみることとを要望しました。強化委員会には就任前にこのスケジュールでということを承認してもらったわけです。

――そこまで考えてからの応募とは頼もしいです。

吉田:ただこの計画はスタッフがいるということを前提にできません。そんなことをしていたらなかなか始められませんから。渉外関係など現場活動以外は委員会にお願いするものの、現場仕事は私一人でできる範囲で計画を立て、とにかく活動を走らせてみるということしかありませんでした。

――吉田さん一人で! それは大変なことです。

吉田:選手には最初の段階で「基本的に練習スタッフは私一人だからそれ以外のサポートはほとんど無いと思ってください。ただし、毎回の計画と報告はきっちりだすよ。」と話しておきました。地図と場所の面で静岡県協会から協力をいただけたのは最大のサポートでした。

――それは心強いですね。

吉田:そのおかげで、私の仕事は、コース作成と地図印刷、計画書と報告書の作成、機材の用意とルーチン化することができました。機材といっても基本、フラッグだけです。埼玉県では、機材の用意と地図印刷、渉外を事務局に行ってもらっていたので、仕事の項目は増えていますが、参加選手が強化選手なので現場での仕事は減らすことができました。

――とは言っても、大変な仕事量です。

吉田:こうして毎週末の富士地区での練習が実現したわけです。

――毎週の開催はひとつの財産とも言えそうです。

吉田:せっかく練習を行うのに、これをWOC選手団だけに限定するのはもったいないことと、次年度以降の選手の強化のためにも選手以外の人にも参加してもらえるように開放したのですが、これは広報が十分でなかったかもしれません。

――次年度以降の課題でしょうね。委員会の方向性とのギャップは徐々に埋まってきているのでしょうか。

吉田:何をやっていくかということについては、実際に実行していく上でかなり厳しいやり取りは途中ありましたが、練習がルーチン化していくなかで、理解も深まり、徐々にサポートしてくれるスタッフも増え、何とか今シーズンの練習を終えることができました。

――それは何よりです。そして、いよいよ本戦間近ですね。

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<吉田勉(よしだつとむ)プロフィール>

1963年生まれ。
オリエンテーリングクラブみちの会所属
選手時代の主な戦績
 日本学生選手権6位
 全日本選手権4位
 世界学生選手権代表 1986
 世界選手権代表 1987,1989,1991,1993
指導者としてのキャリア
 1990,1992 世界学生選手権 コーチ
 1995 世界選手権 コーチ
 2004-5 ナショナルチーム スタッフ
 2007-2009 埼玉県強化委員・埼玉選手団監督
 2010年3月から現職。

 まさにこれだけ組み立てられるのは、吉田氏ならではとも言えそうだ。ここにいたるまで山あり谷ありだったうえ、氏個人の担う役割の大きいことも伺えた。
次回、後編では具体的なチームの状況や取り組み、目標などについて触れる。

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